箸からはじまる日本の心
日本人にとっては箸は食事をする道具として不可欠であり、持ち方は物心がついたころから身についているため造作もないことかもしれません。
食事をする道具には、フォーク、スプーン、ナイフなどもありますが、それらに比べて箸は二本の棒を巧みに使うなんとも複雑な道具であります。
箸の持ち方に表れる品格
箸はただ食べものを掴み口に運ぶだけではありませんよね。
一つの食事の中でも「はさむ」「はがす」「ほぐす」「押さえる」「くるむ」「裂く」「すくう」など、あらゆる動作が箸一膳で行われています。
この複雑な動作を水が流れるかの如く行う様は、箸を使う文化が無い外国の方から見たら『箸を使って食事をしてみたい』と思わせるほどに、とても神秘的な事なのかもしれません。
同じ日本人でも美しい箸の使い方を見ると感動さえ覚えます。
箸の持ち方ひとつで、人の品格が表れると感じたことはないでしょうか?
ここで紹介したい映画があります。
【最後の忠臣蔵】という映画をご覧になったことがありますでしょうか?
忠臣蔵といえば江戸時代中期、江戸城殿中松之大廊下で赤穂藩藩主 浅野長矩が高家肝煎 吉良義央に刃傷に及んだことに端を発する一件で、浅野が切腹となり吉良はお咎めなしとなったことを不服とし、赤穂藩国家老 大石良雄をはじめとする赤穂浪士 47名が元禄15年12月14日未明に、吉良邸へ討ち入りをしたことを題材に、歌舞伎や多くの映画に取り上げられています。
【最後の忠臣蔵】では、その忠臣蔵の赤穂浪士47名が切腹により君主に殉じた中、秘かに生き残った瀬尾孫左衛門という武士の生きざまを描いた作品です。
その瀬尾孫左衛門が自分の命を全て捧げて育て上げた可音という美しい娘がいます。
可音は武家の娘として、行儀作法から読み書き芸事まで教え大切に育てられました。
作法を重んじた可音の食事シーンは、佇まいから箸の持ち方、使い方、置き方どこを切り取っても美しい光景なのです。
『武家の娘』の気品がその食事シーンからもひしひしと伝わってきます。
■参照:【最後の忠臣蔵】|角川映画
箸の持ち方を意識する
ところで、箸の持ち方には自信がありますか?
多くの人は「まあまあ上手に使えている」「不便なく使える」「上手な方だ」と考えているそうです。
ところが、「自分の身の回りに箸の持ち方が間違っている人がいますか?」という質問には、7割以上の方がいると答えているそうです。
ご自身では箸の持ち方に自信があっても、実は伝統的な箸の正しい持ち方ではないかもしれません。
箸の正しい持ち方
正しい箸の持ち方は、
上の箸は箸頭から1/3あたりに親指がくるように親指・人差し指・中指の三本で持ちます。
下の箸は上の箸と箸頭を揃え、親指の付け根に挟み、親指の第一関節あたりで軽く支えます。
上の箸と下の箸の間隔を十分にとり、上の箸のみ上下に動かして、あらゆる動作を行います。
■参照:箸のはしばし|お箸の正しい持ち方
箸の機能は正しく持ってこそ発揮できることです。
大袈裟にいえば握り箸でご飯を口に掻きこむことでも、食事をとることができます。
ですが、どう見ても美しい姿ではありませんし、箸の機能は全く発揮されていません。
箸の正しい持ち方
箸の機能は実に幅広く、他の道具では成しえないことです。
箸でできる動作は
- つまむ
- はさむ
- はがす
- まとめる
- くるむ
- 押さえる
- 支える
- 混ぜる
- すくう
切る動作だけでも
- 切る
- ほぐす
- 裂く
- 割る
よく指を動かすことは脳の活性化に繋がるといわれています。
箸を使うことで脳の活性化に繋がるかというと、残念ながらそうではないようです。
なぜなら、脳を活性化するために必要なのは新鮮な刺激なので、箸を使うことを日常的に自然としている私達ですから、新鮮な刺激ではないからです。
しかし、初めて箸を使う・利き手ではない方で箸を持つといった場合には、箸の複雑な作法は脳に良い刺激を与えることになります。
利き手だとしても、正しい持ち方をし箸の機能を十分に使いこなせるかを意識することで、今までとは違う刺激を脳に与えることができるのではないでしょうか?
それが自然にできるようになれば、脳への新鮮な刺激はなくなりますが、その時には美しい作法が身につき、品格が内から滲みでていることと思います。
箸からはじまる日本の心 まとめ
使い慣れている身近な道具の箸ですが、作法をはじめ機能にも注目すると、実に奥深い道具ですね。
上の箸を上下に動かす加減により、これほどまでに使える道具であります。
複雑で且つ機能性の高い箸が日本に伝来し、箸を使うことが日本人に浸透したのには、日本人が指先の器用な人種であったことにもあると思われます。
素晴らしい箸文化のある日本人であるからには、箸を使うことで品格までも滲みでるような使い方をしたいですね。